小説 新型EDFC

第二話 【企画会議】

デスクワーク

「ダメ!」

一通り次期EDFCの企画を説明し終えた杉山に、上司からはほぼ即答で非情の声が飛んだ。
この企画に自信があった杉山の顔は呆然としていた。

「モーターをワイヤレスにして、お客様は何が面白いの?」
杉山は何も言えなかった。

「アイデアは悪くない。確かにお前の言うメリットも認める。」
「でも、EDFCって面白いもんだろ?お前のEDFCは現行品と比べて何が面白くなったんだ?」
杉山はただ黙って聞いているしかなかった。

会議が終わり、杉山は呆然として席に戻った。
そんな杉山の目に、お客様からのアンケートデータが目に入った。パラパラとめくっているうちに、思わずハッとした。

EDFCを買ってくれた人の感想の大半は「便利」だという声。 そればかりに目をとられていたが、その次には「面白い」という声が多かった。
「そうか。言われるとおり、オレの企画したEDFCには、面白さが足りてない。」

「EDFCが便利というのは、もう現行品でみんな十分に知っている。」
「だから次のEDFCでは違った側面の便利さとして、モーターのワイヤレス化はイケるはずだ。」
「あとは足りない面白さをどうするか…。」
杉山は次の企画会議まで、一人深夜まで会社に残る日が多くなった。

1ヵ月後、杉山の作り上げた企画書には、足りてなかった「面白さ」が追加された。 それは、車速とGに連動した減衰力の自動調整。

杉山は自分がワクワクするEDFCの機能は何だろうと、この1ヶ月考え続けていた。
自分が街中やサーキットを走っていて直面する問題…。
刻々と変わる一般道の路面状況と乗り心地。
サーキットのコーナーのRによって変わる車の挙動。
もしそれらが車速やGに合わせて自動で好みの減衰力に調整できたら…。 そう考えた杉山は、企画書を書くキーボードの指が軽やかになった。

そして運命の企画会議当日。
杉山のプレゼンを受けた上司はしばらく腕組みをして考えこんでいた。 一度惨敗している杉山は、上司の様子を見て内心穏やかではなかった。
「OK!これで行こう!」 上司がそう言った瞬間杉山の顔に笑顔がこぼれたが、 これが新たな困難への始まりでもあった。

第三話 【ダンパーも変えないと…】へ続きます…

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